Masukとりあえず大柄な態度の貴族様とそのお付きを、応接室に連れ込むことには成功しましたよ、と。「こちら、今度お店で提供をする予定の試作品でございます。どうぞご賞味くださいませ」 連れ込んだだけで何も歓待しないわけにもいかないので、すりおろしリンゴジュースをコップに注いでテーブルの上に置く。「お付きの方もどうぞ。そこに立っていてもあれでしょうから、お座りになってください」 さすがに主人の隣には座れないだろうから、少し離れたところにイスを置いてあげる。わたしって気が利くね。でも惚れるなよなっ?「どうぞどうぞ。冷たくておいしいですよ。試作品なのでぜひ感想を聞かせていただきたいです」 はよ飲め。 毒とか入ってないから。「毒見しますか?」みたいな目配せとかいらないから。わたしがその気なら、廊下で声が聞こえた時点でお前たち2人ともすでに死んでるんやで?「おお、これは……美味だな」 はい、美味いただきました♪ やっぱりあらごしのリンゴジュースはまちがいなさそう。まあ、1つ問題があるとすると、この品種のリンゴはこの地方では取れないってことだけかな。ためしにこの辺りの原産の姫リンゴを『創作』で品種改良して王林っぽい感じに調整してみたんだよね。でも量産するには原木から育てないと、さすがに怪しまれてしまう。「おかわりいりますか?」 あっという間にコップが空になっているので、どうやらお世辞じゃなくておいしかったみたい。「ぜひもらおう」「どうぞ。良ければこちらもご賞味ください」 昨日試作してみた出来立てホヤホヤの鳥料理。その名もチキンタツタ!「ほう、これは良い香りだ……」「どうぞ。これで刺してお召し上がりください」 爪楊枝を手渡す。「お、おう。そうか。めずらしい食べ方だな。これを直接刺すのか」 一瞬躊躇する様子を見せたが、漂う香りの誘惑に負けたのか、貴族のおっちゃんは爪楊枝を受け取るとチキンタツタを口に放り込んだ。 庶民の食べ物ですからね。まあ、ナイフとフォークでチキンタツタを食べる人はいないでしょう。「んふ……」 口に入れた瞬間、目を閉じて、声にならない声を上げる。 おいしいのはわかるんですけど、おじさんの喘ぎ声はちょっと……。いや、お付きの人も同じ表情やめて? こわっ、夢に出そう……。「これはなんという料理だ?」「はい。コカトリスのタツタ
お店のほうの準備はだいたい良いでしょう♪ あとは肝心なローラーシューズショーのほうの仕上げねー。「3人ともどう? 自主練進んでる?」 最近あんまりかまえていなくてごめんね。わたしの天使ちゃんたち♡「うっす、アリシア。ちょっと見ない間に美人になったんじゃないか?」 にこやかにお世辞を言ってくるエリオット。「わたしはもともと超絶美人よ!」 エリオット……あなたそんなキャラだっけ? もっと寡黙で筋肉がお友だちな魔族イケメンのはずじゃ……。「エデンに教えてもらってスピンのコツがわかってな。良い感じなんだわ」 それでニヤニヤ軟派なイケメンになってるわけね。まあ手ごたえがあるのは良いことね。「エデンは調子いいの? エリオットに教えられるくらいには余裕なんだ?」「エデンはすげ~っすよ。自分たちのはるか先を行ってるっす。な?」 セイヤーがエデンの肩を組んで話しかける。エデンもまんざらでもない様子。「なになに? ずいぶん仲良しじゃないの。チーム感出てきた?」「私たちはとっくにチームですよ。アリシアが全然顔を出さない間に以心伝心の仲です」 エリオットも加わり、3人でイチャイチャ……カシャリ。 ほぅ……これはとりあえず念写しておこう。人気が出たらチームドラゴンのブロマイドを販売するのもやぶさかではない……。けれどまずは個人で楽しむようとして。カシャカシャ……カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。ホクホク♡「それじゃあ練習の成果をみせてもらおうかしら? 基本の滑り、スピン、ジャンプ」* * * 3人の上達振りはわたしの想像以上だった。 とくにエデン。 もともと所作の美しさは目を引くものがあったけれど、それがこの数日で洗練されてきている。人に魅せるための演技を意識したせいなのか、それとも出自について知ることができたせいなのか、それはわからないけれど。「とってもいいわ! 第1段階としては文句なく合格!」 拍手して3人を出迎える。「手応えあったもんな!」「自分やったっす!」「ええ、2人ともとても良かったです。……良かったよ」 それぞれの喜び方で合格を噛みしめているようだった。「次はコンビネーションにチャレンジしていこうと思うの。最初のショーでどこまで実践するかは決めていないけれど、いずれはコンビネーション技を披露していきたいと思っている
「というわけでコカトリスの焼き方から大きく手を入れていこうと思います」「アリシア、これは?」 ソフィーさんがかまどを指さす。「これはですね、ロティサリー方式と言ってですね、鳥をグルグル回しながら均一に火を通していくんです。このほうがふっくら焼きあがりますし、余計な脂も落ちてその後の食べ方にバリエーションが出せます」 もちろん全自動で回るよー。 天使ちゃんたちには温度管理をお願いすることにしました。セイヤーに協力を仰いで、後輩天使ちゃんたちを厳しく指導してもらうよ。 でもね、かまどにずっと張り付いてると熱いし大変。これを機に、労働環境も改善していくよー。「それとずいぶん良い香りね……」「はいはい、それ大事! ただ焼いただけだとコカトリスは臭いんですよ。だから各種良い感じに調合した香草をお腹にたっぷり入れこんで、さらに皮の表面にも塗ってあります。んー良い香り♪」 これで下準備はばっちりね。 あとはどうやって食べるかってところだけどー。「解体ショーのパフォーマンスはこれまで通りやっていただきたいです。あれは間違いなくこのお店の名物ですから、ローラーシューズショーと並んでずっと続けていくべき」「わかったわ。この体が動く限り力いっぱい続けていくわねん♪」 ソフィーさんが若干安心したような表情を見せる。「わたしはね、何もかも否定してるわけじゃないんですよ。このお店の伝統は大切にしたい。でも、疎かにしている部分をちょっと改善するだけで、もっともっとお客様に喜んでもらえるって思うんです。だから少しだけ厳しいことも言いますけど、それはお店のためなので、できれば試させてほしいです!」 ソフィーさんのプライドを折りたいわけじゃない。 でもせっかくだから高みを目指したいじゃない?「アリシアに任せる、最初にそう決めたんだから、何でも言ってちょうだい!」 改めてソフィーさんとがっちり握手を交わした。「じゃあ言います。鳥の丸焼きの解体ショーを終えた後の料理の提供の仕方を変えましょう」「切り分けた後、ということかしら?」「そうです。あの大きさの鳥ですから、完食する方は少ないのではないですか?」 味もあれだし……。「そうね……。たいていは少し手を付けて、少なくとも半分程度は毎回廃棄しているかしらね」「普通にもったいないですよね。なので、解体ショーで見
「まずい! ぜんぜんダメ!」 これはひどい! ただ焼いただけのものを料理とは言えない……。「でもお客様には好評をいただいていて……」 ソフィーさんが困惑した表情を見せる。 いや、そうじゃないんですってば!「解体ショーのパフォーマンスは最高でしたよ? たぶん何回見ても良いものだろうし、誰かを会合に招待する時の話のネタにもなる」「それなら!」「そのあとの落差ですよ。最高潮にテンションが上がった後に、ただ鳥を焼いただけの獣臭いものを食べさせられたら、ね」 テンションダダ下がりっていうか、まあ、これは見るもので食べるものではないよね、的な反応をされちゃうかなって。プラマイゼロ的な? むしろマイナス?「巨大な鳥だから――」「焼くのが精一杯は味付けまで手が回らないって? 秘伝のタレはどうしたんですか⁉ 料理を提供する側としてどうなんですか? それ、本気でお客様の目を見て言えます? プロのプライドは?」「めんぼくないわ……」 あんなに生き生きとしていたメスのオークが、小さなゴブリンみたいに……。でもダメ。許しません! これは大事なことですよ!「見て楽しい。食べておいしい。また来たい。料理店として胸を張って言える水準を目指しましょう」「そう、よね……。いつからかお客様に甘えていた自分がいたわ。深く反省します」「よろしい。それでは厨房に向かいましょう」* * *「おお、ここがVIP用の厨房なんですね」 10m四方の正方形の部屋に、10人ほどの天使ちゃんたちが控えていた。 さらにもう1つ部屋がつながっていて、奥のほうに巨大なかまどが見える。どうやら奥の部屋はコカトリスを焼くための専用になっているみたいだった。「ちょっと一通り厨房を見させてもらいますね」 手前の部屋は普通サイズの食材を扱う部屋のように見える。 流し台も、調理台も家庭のものとそう変わりない大きさだ。20種類くらいのナイフが吊るしてあるのはさすが調理店というところかな。 清潔感はある。床も油で滑る、みたいなことはなくて、ちゃんと掃除は行き届いていて好感が持てるね。 あとは冷蔵品をどう扱っているか。 見渡しても保管庫らしきものがなさそう。「冷蔵品はどこに保管してるんですか?」 「それはこっちよ」 ソフィーさんに連れられて、奥のかまどルームへと足を運ぶ。「おお、こ
天使ちゃんたち5人がかり、30分ほどで書類の整理が終わる。「こんな細かい仕事頼んだのに助かりますー。めっちゃ早い!」 それにしても優秀なスタッフたちがそろっていますね。店の規模にしては少し多すぎる人数の天使ちゃんたち。ただ人数をそろえただけではなく、多種多様な能力を持つイケメンたちが集まっているということね。 ソフィーさんはこのお店で何をしようとしているのかな?「そうね~。やっぱりこの2人になるかしらね……」 ソフィーさんがまとめられたメモを見て、案の定といった具合につぶやいた。「候補は2人ですか。どんな方なのか教えてもらえますか?」 2人もいたら何とかなりそうな気もする。エロおやじじゃないといいなー。「本命はガーランド伯爵ね」「え? 城主様も顧客だったんですか⁉」 うそー! マジぃ⁉ もう勝ったも同然じゃないですかー!「ええ、ガーランド伯爵にはご贔屓にしていただいているわ。個人的に、昔からの馴染みなのよ」「それはそれは……もしかして、一緒にパーティー組んだり?」「内緒よ♡」 笑顔で拒絶される。 ちぇっ。いつか絶対聞きだしてやるんだから!「まーでも、もうガーランド伯爵で決まりじゃないですか? よくご利用いただいていて、しかも馴染みでコネもあるときた!」「ただ、あのお方はお金にはシビアよ。私がこのお店を継ぐとなった時に『お金か~し~て~♡』って頼んだけど、ぜんぜんだったわよ」 そりゃまあ、ただ貸してって言っても「い~い~よ~」とはならないでしょうよ。いくら昔からの知り合いとは言っても、城主としてのお立場もあるでしょうし。「近いうちに試食会は開いて、ガーランド伯爵をお招きしましょう。そこでお料理、ショー、カジノなどを見ていただき、アイテム収納ボックス購入の資金援助を求めましょう。駆け引きなしの真っ向勝負です!」 それでダメなら裏口から試せばいいだけのこと。弱みを握ったり、ああ、そういえば――。「わたしと同い年のお嬢様がいらっしゃいましたね。ロイス嬢も試食会にお招きしましょう!」「若い方にも喜んでいただけるようなお料理も用意したいわね」「それは考えてまーす。平民向けのお料理なんですけど、エデン、エリオット、セイヤーの3人にはめちゃくちゃ好評だったので行けると思いますよ!」 クレープ、スパイシーから揚げは主力商品になりそ
「なかなか料理が出てきませんねー」 待つこと3時間。 さすがにテトリスも飽きてきたんだけど……。「次、私にもやらせてちょうだい!」 ソフィーさん……下ボタン押すとすぐ積みあがっちゃうでしょ。下手だなー。「コース料理とはいっても、さすがに3時間は長すぎです。調理法に問題があるんだろうな……」「今は一晩に1組しかVIPのお客様を受けて入れていないのよ。厨房は一般用とVIP用に分けていて、VIP専用の調理スタッフを配置しているわ」 おー、非効率! 付きっきりでこの調理時間はぜんぜんダメですね……。この先3階1組、2階2組、さらにカジノスペースとかなりの量の料理を捌かないといけないわけで。厨房の配置や調理法も見直していきましょうかね。「VIPルームはそこまで気にしなくてもいいですが、1階やテイクアウト料理は回転が命です。ここは設備投資をしっかりしたほうが良さそうです」「設備投資というと、具体的には何をするつもり、なの?」 ちょっと大事な話してるのでゲームやめてもらっていいですか? ソフィーさんじゃわたしのスコアは抜けないからあきらめて?「アイテム収納ボックスの購入です」「それはまたとんでもないことを言うわね……。いくらかかるかわかっているのかしら?」 ソフィーさんもさすがに手を止めて、わたしの本気度を確認してくる。「値段はわかっていないです。でも、アイテム収納ボックスの有用性は理解しているつもりです」 肩にかけた革製のバックをポンと叩いて見せる。 こんなに小さなカバンでさえ、ソファやテーブル、その他巨大な木材などなど、相当なアイテムを収納してもまだ空きスペースがある。「まず食材の保管スペースの問題。そして、賞味期限の問題。ここまではわかりますね?」「ええ、まあ。確かに便利よね……でも価格が……」「アイテム収納ボックスは食べ物を扱う料理店にこそ必要な設備だと思うんですよね」 収納中の時間は止められるという最大のメリットは料理にこそ生かすべきものだと思う。実際わたし、作り置きした料理をいっぱい収納してるし。 でもソフィーさんの反応があんまり良くないな……。「んーと、ほかの料理店でもあまり使用されていないものなんですか?」「聞いたことがないわね……。アイテム収納ボックスなんてレアなものはランカー冒険者の一部か、王族、貴族……少なくと
わたしのステータス、LUK≪幸運≫を上げただけなのに、どうしてこうなった?-------------------------- アリシア=グリーン 種族:転生人族 Lv.10 HP:3720 MP:1860 STR≪筋力≫:220 VIT≪体力≫ :181 DEX≪器用≫:183 AGI≪敏捷≫:223 INT≪知力≫:301 LUK≪幸運≫:150 スキル:なし --------------------------「ミィシェリア様……ステータスがおかしくなっちゃったんですけど」「とくにおかしいところはありませんよ。アリシアはLUK
「そのポイント、ちょっと待ったー!」「何ですか? 何かおかしなことがありましたか?」 ミィシェリア様が、わたしの頭のほうに伸ばした手を止める。 危ない。このままポイントを付与されてなるものか!「ミィシェリア様~。わたしの前世の記憶ってちゃんと見てくれましたあ?」 交渉だ! ここでがんばらないと!「はい、もちろん確認しましたよ。穏やかな環境でしたので、標準的なポイント計算で――」「そうじゃなくて! わ・た・し・の! 個人の記憶ですよー。ひどいものでしょう? 泣けちゃいますよね……。何一つ良いことがなくて……人生ハードモードだった上に暴走した車に轢かれて21歳(童貞)の若さで命を
「洗礼式、早く始めてくださいよー」 ミィシェリア様が再びわたしの頭の上に手を置いたまま、特に何もせずに数分が経過していた。「これで洗礼式を終わります。アリシア、あなたは女神ミィシェリアの名のもとに洗礼を受け、仮成人となりました。おめでとうございます」「へ? 終わり? さっきみたいなぐわーって熱くなったり、なんか光がパーっとなったり、天井から天使が舞い降りてきたり、女神の祝福のキスとか……そういうのないんですか?」「ありませんね。洗礼式はあなたの内側にある鍵を開けるだけですから、私から付与するものは何もありません」 なんだーそれー。期待して損したー。演出弱いなー。ゲームだったらここでプ
ミィシェリア様の手を通じて、わたしの頭の中に、誰かの記憶の断片が流れ込んでくるのを感じる。 これは誰? 男の子? 見たことない服。周りの風景。 あ、待って。なんかちょっと思い出してきたかも。 あ……前世。これが前世なんだ。 わたし、前世では男の子だったんだ。気弱そうであんまりかっこよくない……。王子様とは違う。がっかり。 流れ込んできた記憶、そして知識が紐づいていき、わたしは前世という概念を理解した。 大学。研究。ロボティクス工学。就職活動。 知らない言葉が頭の中に浮かんでは消える。そして脳内に浮かぶ映像とともに理解する。 わたし







